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住野よる『また同じ夢を見ていた』不可逆な時間の中で幸福を探し彷徨う全ての人へ

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あらすじ

デビュー作にして25万部を超えるベストセラーとなった「君の膵臓(すいぞう)をたべたい」の著者が贈る、待望の最新作。友達のいない少女、リストカットを繰り返す女子高生、アバズレと罵られる女、一人静かに余生を送る老婆。彼女たちの“幸せ”は、どこにあるのか。「やり直したい」ことがある、“今”がうまくいかない全ての人たちに送る物語。

 

 

感想

幸福とは何だろう。 

幸福は繰り返される日常の中にある何でもないような些細なことだったりする。

例えばそれは、水たまりに反射する綺麗な青空だったり、季節を知らせてくれる美しい花を見つけた時だったり。それは、奇跡というには軽薄に感じられるけど、当たり前というにはあまりにも眩しい一瞬の中にある。

でも、世界は美しいだけではない。世界は不平等で不条理である。そして自分の存在のちっぽけさや、どうしようもない無力を感じる。

そんな時、周りをよく見れば見落としてしまうような小さな幸福が見つかるかもしれない。

 

主人公の「奈ノ花」は、この物語で出会う自分より年上の4人の女性と関わることで「人生とは」という問いを終始続けています。成長する日々の中で、色んな経験を積むことよって「奈ノ花」は「人生とは」そして幸福とはという意味を見つけていく。

 

住野よるさんの作品は読みやすい文章でありながら、生きていくということ、幸せとは何かといった人間の普遍の問いを読者に投げかけてくれる。

 

読書に興味がある、これから小説が読みで見たい人にはおすすめの作者さん。 それにしても、住野よるさん女性じゃないかと思ってしまうような柔らかく繊細な文体です。

名言集

「いつかオセロが強くなる日がくるのかしら」

「くるさ。なっちゃんには先を見る力があるからね。ゲームにはその力が不可欠なんだよ。」

「偉くなりたくないわ。別に偉くなりたくもないし、それより、もっとかしこくなりたい」

「偉くなったら、日曜日に家族でお出かけする時間も作れないんでしょ?そんなの偉くなる意味、ないわ」

「プリン、みたいなものなんだ。子どもの時の恋は、甘い部分だけ見てればそれでいいし、それって凄く素敵なことだ。皆、それは分かってるんだ。だけど、大人になると、プリンには苦い部分があることも分かって、いつの間にか、よけて食べることが悪いことのように思えて、一緒に食べるようになる。だけど、私はコーヒーやお酒と違って、恋の苦い部分が嫌いなんだ。それに頑張ってそこをよける作業も面倒だからだんだん食べなくなってきちゃった」 

「大好きなことに一生懸命になれる人だけが、本当に素敵なものを作れるんだよ」 

 

誰にも言わなかった秘密。私はいつか出来上がった物語で皆を感動させて驚かせてあげようと企んでいたので、 これを人に言ったのは初めてでした。その甲斐あって、私はまた新しい物語と出会うチャンスを手に入れることが出来ました。こういうのを取引っていいます。

私は、世界中の人が物語を好きになれば、世界は平和になるかもしれないと思いました。こんなに楽しいことがあると知っていれば、人を傷つけたりしようなんて誰も思わないはずです。

大切にするのも、壊すのも、持っている人が決めることだ

怖いっていう思いに、うなだれてしまっては相手の思うつぼなのです。そういう時こそ、胸を張って、たとえ嘘でも、強いふりをした方がいいのです。

 

馬鹿というのは、相手が言い返さないと知ると、自分の方が強いと勘違いしてしまうくらい馬鹿なのですから。 

 馬鹿な人が一つもっともらしいことを言ったからといって、それまでの百の間違いが許されるわけではありません。

頭のいい大人より頭の悪い大人の方がよっぽど多いし、頭のいい大人がいい大人とは限らない

 

幸せとは、自分が嬉しく感じたり楽しく感じたり、大切な人を大事にしたり、自分のことを大事にしたり、そういった行動や言葉を自分の意思で選べることです。 

 

そしてこの物語の最後におばあちゃんが、小学生の「菜ノ花」に「人生とは」を語りかけます。とても素敵な言葉です。是非、読んでみてください。