アニメ『言の葉の庭』には万葉集と村上春樹がかくれんぼしている
あらすじ
靴職人を目指す高校生・タカオは、雨の朝は決まって学校をさぼり、公園の日本庭園で靴のスケッチを描いていた。ある日、タカオは、ひとり缶ビールを飲む謎めいた年上の女性・ユキノと出会う。ふたりは約束もないまま雨の日だけの逢瀬を重ねるようになり、次第に心を通わせていく。居場所を見失ってしまったというユキノに、彼女がもっと歩きたくなるような靴を作りたいと願うタカオ。六月の空のように物憂げに揺れ動く、互いの思いをよそに梅雨は明けようとしていた。
解説
新海誠監督のはじめての「恋」のものがたり。 実はこの映画、日本最古の和歌集である『万葉集』と、日本を代表する作家「村上春樹」が隠されたキーワードになっている。
万葉集
・雷神(なるかみ)の 少し響(とよ)みて さし曇り
雨も降らぬか 君を留めむ 柿本人麻呂歌集訳:雷が少しだけ鳴り響き、曇り空が広がり雨が降ってくれたら、帰ろうとするあなたを引き留められるのに
・雷神(なるかみ)の 少し響(とよ)みて 降らずとも
われは留らむ 妹し留めば 柿本人麻呂歌集訳:雷が鳴らなくても 雨が降らなくても
君が引き止めてくれたなら 僕はここにいるよ
女性からの歌に男性が歌で返す門答歌。作中では出会ったばかりの頃にユキノがタカオに送っている。
村上春樹
雨やどりのシーンで出てくる「わたしたち、泳いで川を渡ってきたみたいね」というセリフ。これは村上春樹さんの小説「ノルウェイの森」の引用です。 それ以外にもタカオとユキノ先生の本棚には、たくさんの作品が登場します。
作品で出てくる本
タカオの部屋の本棚
ユキノの部屋の本棚
映像の美しさもさることながら、46分という短い時間にたくさんの意図がこめられていて、見直せば見直すほど新たな発見があって面白いです。
「雨宿りで男女が出会う」、「人生の雨宿り」といったふたつの雨宿りがテーマになっている。
また、タカオとユキノの立ち位置や天候によって、ふたりの関係が映像によって隠喩されているのも面白い。
物語に『万葉集』の恋の歌をとりいれることで、今という一瞬のなかに、男女の恋という昔から変わることのない永遠のテーマが時代を超えて存在し続けていることが感じられて、物語の深みがぐっと増している。
また、主題歌の秦基博さんのカバー曲「Rain」は新海誠さんが学生時代クラスメイトの女の子に教えてもらった曲だという。この映画には時代や個人の思い出の中に存在するさまざまな恋が詰まっている。