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村上春樹の処女作『風の歌を聴け』

 

村上春樹の1作目の長編小説。

1970年夏、あの日の風は、ものうく、ほろ苦く通りすぎていった。僕たちの夢は、もう戻りはしない――。群像新人賞を受賞したデビュー作

タイトルは、トルーマン・カポーティの短編小説 "Shut a Final Door" (「最後のドアを閉じろ」)の最後の一行「Think of nothing things, think of wind」から取られた。

当時の村上春樹と同じく1978年に29歳になった「僕」が、1970年8月8日から8月26日までの18日間の物語を記す、という形をとり、40の断章と、虚構を含むあとがきから成る

 村上は後年、本作について「『風の歌を聴け』という最初の小説を書いたとき、もしこの本を映画にするなら、タイトルバックに流れる音楽は『ムーンライト・セレナーデ』がいいだろうなとふと思ったことを覚えている。そこにはエアポケット的と言ってもいい、不思議に擬古的な空気がある。僕の頭の中で、その時代の神戸の風景はどこかしら『ムーンライト・セレナーデ』的なのだ」と語っている

名言集

女性

「ねえ、女って一体何を食って生きてるんだと思う?」「靴の底。」

 

彼女は幾らか不器用そうに見え、そして美しかった。それは見た人の心の中の最もデリケートな部分にまで突き通ってしまいそうな美しさだった。

 

彼女は14歳で、それが彼女の21年の人生の中で一番美しい瞬間だった。

 

いつものことだが、彼女の頭の中でいったい何が起こっているのか、僕には想像もつかなかった。

文章

「文章を書くたびね、俺はその夏の午後と木の生い繁った古墳を思い出すんだ。そしてこう思う。蝉や蛙や蜘蛛や、そして夏草や風のために何かが書けたらどんなに素敵だろうってね」

 

小説と言うものは情報である以上グラフや年表で表現できるものでなくてはならないというのが彼の持論であったし、その正確さは量に比例すると彼は考えていた。

 

「誰もが知っていることを小説に書いて、いったい何の意味がある?」

 

 もし僕たちが年中しゃべり続け、それも真実しかしゃべらないとしたら、真実の価値などなくなってしまうのかもしれない。

 格言

 巨大さってのは時々ね、物事の本質を全く別のものに変えちまう

 

「汝らは地の塩なり。」

「塩もし効力を失わば、何を持てか之に塩すべき。」

 

「惜しまずに与えるものは、常に与えられるものである」

 

 「昼の光に、夜の闇の深さがわかるものか。」

詩的表現

「空が好きなんだ。いつまで見てても飽きないし、見たくないときには見なくて済む」

 

 我々は時の間を彷徨っているわけさ。宇宙の創生から死までをね。

 

雨で黒く塗れた門柱は荒野に立った2本の墓石のように見える。

 

五月の柔らかな日ざしの下では、生も死も同じくらい安らかなように感じられた。

人生観

 高校の終り頃、僕は心に思うことの半分しか口に出すまいと決心した。理由は忘れたがその思いつきを、何年かにわたって僕は実行した。そしてある日、僕は自分が思っていることの半分しか語ることのできない人間になっていることを発見した。

 

嘘と沈黙は現代の人間社会にはびこる二つの巨大な罪だと言ってもよい

 

「何故人は死ぬの?」「進化してるからさ」

 

「ねぇ、私が死んで百年もたてば、誰も私の存在なんか覚えてないわね。」

 

「毎朝私はベッドから起き上がって港まで歩き、海の香りを胸いっぱいに吸い込めたら……と想像します。もし、たった一度でもいいからそうすることができたとしたら、世の中が何故こんな風に成り立っているのかわかるかもしれない。そんな気がします。そしてほんの少しでもそれが理解できたとしたら、ベッドの上で一生を終えたとしても耐えることができるかもしれない。」

 

「条件はみんな同じなんだ。故障した飛行機に乗り合わせたみたいにさ。もちろん運の強いのもいりゃ運の悪いのもいる。タフなのもいりゃ弱いのもいる、金持ちもいりゃ貧乏人もいる。だけどね、人並み外れた強さを持ったやつなんて誰もいないんだ。みんな同じさ。何かを持ってるやつらはいつか失くすんじゃないかとビクついてるし、何も持ってないやつは永遠に何も持てないんじゃないかと心配してる。みんな同じさ。だからそれに気づいた人間がほんの少しでも強くなろうって努力するべきなんだ。振りをするだけでもいい。そうだろ?強い人間なんてどこにも居やしない。強い振りのできる人間が居るだけさ。」

 

あらゆるものは通り過ぎる。誰にもそれを捉えることはできない。僕たちはそんな風にして生きている。

 

泣きたいと思う時にはきまって涙が出てこない。そういうものだ。

 

「 宇宙の観念」という言葉を彼が使う時、それは大抵「不毛さ」を意味した。

 

「宇宙の複雑さに比べれば」とハートフィールドは言っている。「この我々の世界などミミズの脳味噌のようなものだ。」

そうであってほしい、と僕も願っている。 

感想

村上春樹さん自身はこの作品について未熟だといっているけれど個人的に好きです。

インディーズバンドの良さと同じような雰囲気をこの作品に感じるのです。

虚構の中に真理を生み出す。

この小説を書いた当時の村上春樹と今の村上春樹では本人の心境や作風も変わっているのだろう。

人は変わっていく生きものだからそれは自然なことだと思う。

変わったから好きとか嫌いとかではなくて、この作品のあどけなさや真っ直ぐさ、そして本気で何かを変えたいと思う当時の彼の気持ちが伝わってくる。

作中にはたくさんの音楽や本が紹介されているので、またほかの記事で紹介できればと思う。

今回は名言集をまとめてみました。

ほかにもこんなのがあるよって方がいたらお気軽にコメントください。